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千葉家庭裁判所 昭和48年(少ハ)1号 決定

少年 M・M(昭二八・六・七生)

主文

少年を、昭和四八年六月七日から五か月間、特別少年院に継続して収容する。

理由

(1)  保護観察の必要を理由とする収容継続申請について、

少年法一一条四項、二項によれば、少年院に収容された少年の収容の継続は、その少年の心身に著しい故障があり、または犯罪的傾向がまだ矯正されていないため、少年院から退院させるに不適当であると認められる場合に、これをすることができるものであるが、この少年院からの「退院」は、「仮退院」を含まず、従つて、上記のような理由により、少年を少年院から仮退院させたうえ保護観察のもとに社会復帰させることが相当であつて、保護観察のもとにおかず直ちに退院させることが不適当であると認められる場合にも、収容の継続をすることができる。ただし、現行の少年保護の体系は、収容保護された少年を社会復帰させるには、まず保護観察のもとにおいてその後順次少年の拘束を解いていくのが妥当であるという考え方を採用していないから、保護観察付き仮退院の後に退院すなわち保護観察の解除をすることが相当であるということを理由とする収容の継続の場合にも、一般的に被収容者の社会復帰にはそれが相当であるということでは足らず、その方法によらなければ再度犯罪を犯すおそれが顕著である程度にまで、少年の心身の故障が著しく、または犯罪的傾向が残存していると認められる特別の事情がなければならない。

(2)  少年の犯罪的傾向について、

(イ)  少年は、父M・O、母M・M子の第四子として出生し、昭和四四年三月、中学校を卒業したが、中学一年生時代に詐欺により補導されたのを初めとして、昭和四四年二月三日賍物故買のため東京家庭裁判所により審判不開始決定を受け、同年四月には定時制高等学校に進学したが、同年一二月には退学し、他方就業の方は転職を繰り返し、これと並行して昭和四五年一一月ごろから昭和四六年七月九日に至るまでの間に、一部は実弟M・N他と共謀のうえ、窃盗、詐欺および恐喝を合計二九回累行し、このため同年八月一七日当裁判所により中等少年院送致決定を受け、神奈川少年院に収容され、同少年院において合計八回説諭、訓戒、謹慎の各処分を受けた揚句、昭和四七年八月二五日、特別少年院である小田原少年院に移送となつた。M・Nは上記事件のため当裁判所により保護観察決定を受け、現在保護観察継続中である。

(ロ)  以上によれば、少年は、非行歴も古く、かつ非行性も相当深化していたと考えられるが、少年の遺伝その他の先天的資質にも、出生後の成育史の中にも、また近隣、交友、家庭等環境の中にも、少年の非行性の要因となるものとして顕著なものは見当らない。父母は、少年の保護能力において格別優れているという訳ではないが、多少甘いという以外には少年の非行性を助長するようなところはなく、普通の夫婦であり、親子関係にも、格別の問題もない。従つて、少年の犯罪的傾向の矯正には、環境の調整や親子関係の調整等が格別必要とされているものではなく、少年自身の性格の矯正と自覚の喚起に期待するほかないのであるが、これは長期の粘り強い保護によつてしか達成できない。

(ハ)  少年の少年院送致決定時の性格は、即行性、自己顕示性、不安定性、無力性が強く、自己中心的で防衛的構えが顕著であると見られていたが、この基本的性格は、現在もなお、それが犯罪的傾向に結びつかない程度にまでは矯正されていないと考えられる。このことは、当裁判所の審判に際し、少年が、神奈川少年院時代の反則について、なかなか具体的事実を話そうとせず、弁解に終始した点および当裁判所が父に対し父のM・Nを保護監督する態度につき質問していた際、これをM・Nに対する非難と軽信して顔色を変えて抗議した点からも充分推測できる。また、少年の少年院退院後の覚悟についての陳述は、具体性がなく、単にきちんと職に就いて仕事をするという程度のものであるが、少年の非行が就業と並行して敢行されていることから考えても、少年の非行についての自覚は極めて浅いと言わざるをえない。さらに少年は、出院後共犯者と出会つた時には、特にこれを避けることはしないと陳述しているが、これも少年の自覚と自信に裏打ちされた確信のある態度として考えている訳ではない。

(3)  出院後の少年をとりまく環境について、

少年の出院後の就業の見通しについては、父の思惑と少年の希望は多少齟齬し、かつ、父の計画にも明確な具体性はない。さらに出院後父母同胞のもとに帰住すると、保護観察中の実弟M・Nと生活を共にすることになり、少年に何らの拘束もないことは、双方にとつて好ましくない影響を与えることが推測できる。さらに、上記のとおり、父母の保護能力は、格別高いとは言えず、上記のとおりの少年の犯罪的傾向を考えると、父母に出院後の少年の保護を委

ねることは到底できない。

(4)  結論

以上の事情を勘案すると、小田原少年院に移送された後の少年の真剣な生活態度を当裁判所は充分評価するが、それでもなお、少年の犯罪的傾向がまだ矯正されていないと言わざるを得ず、仮退院後相当期間の保護観察を必要とする特別の事情があり、その期間は、約六か月が相当であると認められる。少年の現在の処遇の経過から考えれば、少年に対しては、昭和四八年五月中旬仮退院が許可されることが予想され、仮退院後、同年六月六日に至るまでは、当裁判所がした中等少年院送致決定により、保護観察を行うことが可能であるから、さらに五か月間、この保護観察を継続すべく、あわせて、この期間内に少年の仮退院を不相当とする事情が発生した場合には、右期間、少年を現在収容されている特別少年院に継続して収容すべく、少年院法一一条四項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 江田五月)

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